2,902万人が歩いたあの会場が、今は更地になりつつある。
本当に、あっという間だった。184日間だけの「夢の街」。会期が終われば解体して更地に戻す——万博とはそういうイベントで、1970年の大阪万博で太陽の塔が生き残ったのは、むしろ奇跡みたいな話だった。
2025年の万博も同じ運命をたどっている。ただ、全部が消えるわけじゃない。淡路島に渡ったパビリオン、広島で第二の人生を始めるクラゲ館、能登の復興住宅に姿を変える大屋根リングの木材——。「消える万博」の中で「残るもの」の記録を、ここにまとめた。
万博GOフォトコンテストより — 在りし日のパビリオン夜景。この光景はもう見られない
解体スケジュール — 2026年4月13日が返還期限
各参加国・企業は2025年10月20日以降にパビリオンの解体を開始し、2026年4月13日までに敷地を返還するよう要請されている(万博公式サイト)。会場全体の整地・土地返還の最終期限は2028年2月末。
つまり、今この記事を読んでいる2026年4月——ほぼ全てのパビリオンが姿を消した後のタイミングや。
万博協会は計17.5館の移設目標を掲げていた。1970年万博の移設実績を参考に算出された数字だけど、実際のところ交渉が難航して期限に間に合わないケースも出ていた(日経クロステック)。移設の話は「やります」と「実際にだった」の間に、めちゃくちゃ大きな溝がある。
移設が決まった6つのパビリオン
万博GOフォトコンテストより — パソナ館「NATUREVERSE」の外観
全部が解体されるわけじゃない。一部のパビリオンは新しい場所で生き続ける。以下が2026年4月時点で移設が確定・進行中のパビリオンの一覧。
| パビリオン | 移設先 | 状況 |
|---|---|---|
| パソナ館「NATUREVERSE」 | 兵庫県淡路島 | 移設決定。2026年6月に長期滞在型施設も開業予定 |
| オランダ館 | 兵庫県淡路島(パソナ敷地内) | 移設決定 |
| ルクセンブルク館(鉄骨部材) | 大阪府交野市(旧第一中学校跡地) | 部材再利用で子育て支援施設に |
| ルクセンブルク館(基礎ブロック) | ネスタリゾート神戸 | 226個を園内整備に活用 |
| ルクセンブルク館(膜屋根) | モンドデザイン → バッグ・小物に再生 | 2026年5月出荷予定 |
| クラゲ館 | 広島県福山市 | 2029年開館の「子ども未来館」屋外施設として移築 |
| ウズベキスタン館 | ウズベキスタン(本国) | スタジオ・教育施設として再利用 |
| 公園トイレ | 大阪府河内長野市(花の文化園) | 移設済み |
| 静けさの森(約2.3ha) | 大阪市夢洲(現地保存) | 残置決定、共鳴機構(FoR)設立 |
| ミャクミャク像(2体) | 万博記念公園 → 府内巡回 | 2026年1〜3月公園展示、4月以降巡回 |
| 「いのちの未来」展示 | 東京・MoN Takanawa(高輪GW) | 2026年夏に再演決定 |
| パナソニック「ノモの国」ファサード | 2027年横浜花博 | ドーム構造として再利用 |
| パナソニック「ノモの国」館名サイン | 大阪・野田阪神商店会 | 2026年3月移設済み |
| ドイツ館レストラン「Oishii! Germany」 | 大阪・難波 | 2026年春〜夏に新店舗オープン予定 |
| 実物大ガンダム像(17m) | 未定 | バンダイナムコが再展示を検討中 |
パソナ館「NATUREVERSE」→ 淡路島
パソナグループが運営した「NATUREVERSE」は、万博の人気パビリオンランキングでTOP10に入った実力派。これが丸ごと淡路島に移設される。
さらに、2026年6月には健康をテーマにした長期滞在型施設「THE PASONA natureverse retreat」も同じく淡路島に開業予定。万博のレガシーをそのまま観光資源に転換する動き。パソナは淡路島に相当な投資をしていて、本気で「淡路島=万博の第二の故郷」にしようとしている。
オランダ館 → 淡路島
万博GOフォトコンテストより — オランダ館の外観
オランダ館もパソナグループの敷地内に移設が決定。パソナ館とオランダ館が淡路島で隣り合う形になる。淡路島へのアクセスは車が基本だけど、神戸淡路鳴門自動車道で明石海峡大橋を渡ればすぐ。万博に行けなかった人も、淡路島なら気軽に行ける。
ルクセンブルク館 → 大阪府交野市
万博GOフォトコンテストより — ルクセンブルク館
これが個人的に一番面白いと思っている移設事例。交野市は全国約1,700自治体の中で唯一、海外パビリオンの部材再利用移設に名乗りを上げた自治体(交野市公式サイト)。
移設されるのはパビリオンの鉄骨(柱・梁・筋交い)と鉄屋根、自動ドア、エアコンなど、約430m²分の部材。旧第一中学校跡地に子育て支援施設として再利用される。「万博のパビリオンが子育て支援センターになる」って、すごくええ話じゃないか。
クラゲ館 → 広島県福山市
数学研究者・中島さち子さんがプロデュースした「いのちの遊び場 クラゲ館」は、デジタル技術で音や光を五感で感じる体験施設だった。あの個性的な外観が印象に残っている人も多いと思う。
移設先は広島県福山市。2029年度にオープン予定の科学館「子ども未来館」の屋外施設として再利用される(中国新聞)。移築費用は約5億300万円。10年ごとに屋根の膜を張り替える必要があって維持費もかかるけど、子どもたちが万博の遺産に触れ続けられる場所ができるのは価値がある。
公園トイレ → 大阪府河内長野市
意外なところでは、万博会場内の「2億円トイレ」が大阪府立花の文化園(河内長野市)に移設された。老朽化していたトイレの代替として使われるという、すごく実用的な第二の人生。デザイン性と快適さを兼ね備えたトイレが公園で現役を続けてるのは、ちょっとほっこりする。
参考: 東洋経済オンライン / 万博公式 - 会場・施設情報
大屋根リング — 北東200mが永久保存、費用は最大90億円
大屋根リングの上の花畑 — この壮大な構造物の一部が永久保存される
万博最大のシンボル、大屋根リング。全周2km、ギネス世界記録にも認定された世界最大の木造建築物。そのうち北東側の約200m(全体の約10分の1)が保存される。
保存の詳細はこう:
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 保存範囲 | 北東側約200m(全周2kmの約10%) |
| 場所 | 大阪ヘルスケアパビリオン跡地の隣接エリア |
| 構造 | 原形に近い形。上に登れる構造を維持 |
| 費用 | 改修・10年間の維持管理で約50億〜最大90億円 |
| 財源 | 万博運営費の黒字(230億〜280億円見込み)から充当 |
| 周辺整備 | 約3.3ヘクタールを大阪市の市営公園化 |
| 記念館 | EXPO2025記念館(仮称)を公園内に設置 |
実は保存案は「北東200m」だけじゃなくて「南西350m」の案もあった。南西案のほうが規模は大きいけど、費用面とIR開発エリアとの兼ね合いで北東案に落ち着いた(日経クロステック)。関西7大学のトップが「なるべく多く保存を」と要望書を出す一幕もあったけど、結局200mに。
200mは全体の10分の1。「少なすぎる」「90億円もかけて200mだけ?」——批判はある。正直、どっちの気持ちもわかる。
ただ、リングの上から夢洲の景色を眺められる場所が残るのは、万博を経験した者としてはやっぱり嬉しい。
もうひとつ厄介な問題がある。すでに腐食が始まっている部分があるらしい(週刊SPA!)。木造建築の宿命とはいえ、保存には相当な補修作業が必要になる。350億円かけて作ったリングの維持は、今後もずっと課題であり続ける。
ガンダムとミャクミャクのゆくえ
大屋根リングと花火 — この組み合わせは万博でしか見られなかった
実物大ガンダム像 — まだ行き先が決まっていない
17mの実物大ガンダム像。横浜の「動くガンダム」の資材を再活用して建てられたあの巨像の移設先は、2026年4月時点でまだ正式に決まっていない。
SNSでは「残してほしい!」の声が多いけど、バンダイナムコの権利関係もあって簡単にはいかんやろう。解体期限は目前。果たしてどうなるのか、続報を待ちたい。
ミャクミャク像 — 巡回展示の旅へ
万博の公式キャラクター・ミャクミャクの像2体は、閉幕後に万博記念公園に移設された(日本経済新聞)。2026年1〜3月は公園内で展示、4月以降は大阪府内の観光名所を巡回展示する予定。将来的には夢洲への再設置も検討されている。
2026年4月12日のEXPO2025 Futures Festivalでもミャクミャクのダンスパフォーマンスが予定されているから、「あのミャクミャクにもう一回会いたい」という人はこのイベントが狙い目。
大屋根リング木材の再利用 — 能登復興住宅からベンチまで
ひとつ心温まる話。
解体されるリングの木材の一部が、能登半島地震の復興住宅に活用されることが決まった(日経クロステック)。石川県珠洲市に約1,200m3の木材(42cm角の柱、21cm×42cm梁、CLTパネル)が無償譲渡され、2026年3月から順次搬入が始まっている。坂茂氏らの支援で実現した取り組み。
「解体=無駄」じゃない。形を変えて、別の場所で人の役に立つ。正直、パビリオンの移設話の中で一番グッときたのがこれだった。被災地で「万博の木」が誰かの家の一部になるって、レガシーの最も美しい形だと思う。
リング木材のリユース先一覧(2026年4月時点)
| 譲渡先 | 内容 | 状況 |
|---|---|---|
| 石川県珠洲市 | 能登復興公営住宅の建設資材(約1,200m3) | 2026年3月〜搬入開始 |
| 鹿島建設(横浜花博) | 60m木造タワー「KAJIMA TREE」(木材の約3%使用) | 2027年完成予定 |
| 愛媛県 | CLTパネル18枚 → 全国植樹祭のステージ・歩道 | 譲渡済み |
| 高知県 | ヒノキ柱+CLTパネル23枚 → レプリカ・ベンチ・家具に再利用 | 譲渡済み |
| 神奈川県 | 板材 → 横浜花博の花壇・ウッドデッキ | 落札済み |
| 一般公募(記念グッズ用) | 柱・梁の端材 → 記念グッズ製作・販売 | 2026年4月中旬〜公募 |
2026年2月までに4回の公募を実施し、合計約4,000m3の木材が全国の自治体・企業に譲渡される予定(万博協会公式)。
パナソニック「ノモの国」— 99%リユースの実現
パナソニックグループのパビリオン「ノモの国」は、建築物のリユース・リサイクル率99%以上を達成した(パナソニック公式)。「使い捨てにしない万博」を体現した最も成功した事例。
| 部材 | リユース先 |
|---|---|
| ファサード736個 + 照明・スピーカー・ミスト設備 | 2027年横浜花博でドーム構造として再利用 |
| バイオセンサリードーム(一部) | パナソニックHD技術部門「西門真新棟」の来訪者向け展示 |
| オーガンジー | 上田安子服飾専門学校のファッションイベント(2026年1月)で服飾材料に |
| 館名サイン・展示物 | 大阪・野田阪神駅前通商店会に移設(2026年3月15日〜) |
ルクセンブルク館 — 「解体なき未来」の挑戦
ルクセンブルク館は「サーキュラー・バイ・デザイン」——解体を前提に設計されたパビリオンだった。そのリユース先は多岐にわたる。
- 鉄骨・鉄屋根・自動ドア等(約430m2分): 大阪府交野市の旧第一中学校跡地 → 子育て支援施設に再利用
- 基礎コンクリートブロック226個(約542トン): ネスタリゾート神戸で園内環境整備に活用
- 膜屋根素材: モンドデザインが回収し、バッグ・小物に再生。予約1,800本超の大人気。ボストンバッグ33,000円〜、2026年5月出荷予定(SEAL公式)
1つのパビリオンから鉄骨、コンクリート、膜まで全部がバラバラの行き先に旅立つ。これぞ循環型の理想形(東洋経済オンライン)。
「いのちの未来」が高輪ゲートウェイで復活
石黒浩氏のシグネチャーパビリオン「いのちの未来」が、2026年夏に東京・MoN Takanawaで再演されることが決まった。高輪ゲートウェイ駅直結のTAKANAWA GATEWAY CITYに2026年3月28日開館した「文化の実験的ミュージアム」。万博で見逃した人も、東京で体験できるようになる。
ドイツ館レストランが難波に出店
万博で大人気だったドイツ館のレストラン「Oishii! Germany」が「日本に残ります!」と発表。2026年春〜夏に大阪・難波エリアで新店舗がオープン予定(大阪日日新聞)。万博でしか食べられないと思っていたあの味が、日常になる。
静けさの森 — 夢洲に残る1,500本の木
万博会場の中央に広がっていた約2.3ヘクタールの「静けさの森」。約1,500本の樹木が植えられた空間は、当初更地に戻す予定やったが、大阪府・大阪市の夢洲マスタープランで残置が決定した。「静けさの森 共鳴機構(FoR: Forest of Resonance)」が設立され、万博の理念を継承しながら森は今後も拡大を続ける。
ウズベキスタン館 — 本国でスタジオに
海外パビリオンのほとんどは解体して更地に戻されるが、一部は本国に返送されて新しい施設に生まれ変わる。ウズベキスタン館はパビリオン全体を分解して本国へ返送し、スタジオや教育施設として再利用される予定。
ミャク市!— ベンチ1脚からマンホール蓋まで
万博協会が運営するリユースプラットフォーム「万博サーキュラーマーケット ミャク市!」では、パビリオンの建材だけでなく、ベンチ、照明柱、空調設備、トイレ衛生機器、案内サイン、ミャクミャク柄のマンホール蓋まで、約4,000点が全国の自治体・企業・個人に譲渡される予定。
特にミャクミャク柄マンホールは個人からの応札が殺到したらしい。「万博の思い出をモノとして手元に」という需要は想像以上に大きい。第3回公募は2026年3月に実施済み。
会場内樹木6本が横浜花博へ
万博会場内の樹木6本が2027年横浜国際園芸博覧会(GREEN×EXPO 2027)に移植された。環境に配慮した輸送方法で、万博から次の博覧会へと「いのち」がつながった。
万博記念公園で「ビフォー・アフター展」開催中
ちなみに、吹田市の万博記念公園内のEXPO’70パビリオンでは、企画展「1970年大阪万博ビフォー・アフター展 〜あのパビリオンはいまどこに?〜」が開催されている(万博記念公園公式サイト)。1970年万博のパビリオンがその後どうなったかを追った展示で、2025年万博と重ねて見るとまた味わい深い。太陽の塔を見たついでに寄ってみるのをおすすめする。
パビリオンは消えても、記録は残る
万博GOフォトコンテストより — 形は消えても、記録は永遠に残る
物理的には、ほとんどのパビリオンはもう存在しない。
でも記録はある。万博GOのアーカイブには、全パビリオンの情報、リアルタイムの待ち時間データ、来場者投票によるランキング、フォトコンテストの写真——万博期間中の全記録が残っている。
「あのパビリオン、どんな展示やったっけ?」
そう思ったときにいつでも戻ってこれる場所がある。それだけで、記録を残した意味がある。万博が終わって半年。建物は消えたけど、2,902万人の記憶はまだ鮮明や。
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